機能性ディスペプシアとは
「胃が痛い」「胃がもたれる」「すぐお腹がいっぱいになる」といった症状が続いているのに、胃カメラ、超音波検査(腹部エコー)などの検査を受けても「異常なし」と言われた経験はありませんか? それが機能性ディスペプシア(FD)という病気です。
この病気は胃に潰瘍やがん、炎症などの目立った異常がないのに、胃の「働き」に問題があって不快な症状が出る状態です。日本人の約10人に1~2人がこの病気に悩んでいるとされ決して珍しくありません。
FD患者では、過敏性腸症候群(下痢や便秘を伴うお腹の張りや痛み)、胃食道逆流症「胸焼けや呑酸(すっぱい胃内容物が口の中まで上がってくること)」、機能性便秘などを併存することが多く、その頻度はさまざまですが10~50%の人に認められる ことが知られています。また、うつや不安などの精神的な疾患もしばしば併存します。さらに、FDと診断される患者のなかには胆のうや膵臓の病気が隠れている場合もあります。
機能性ディスペプシアの症状
主な4つの症状
- 食後に胃がもたれる
- 少し食べただけでお腹がいっぱいになる
- みぞおち(胃のあたり)が痛い
- みぞおちが焼けるような感じ
症状のタイプ
症状の出方によって、大きく2つのタイプに分けられます。
1.食後愁訴症候群
- 食べた後に胃がもたれる
- 少し食べただけで満腹になる
2.心窩部痛症候群
- みぞおちの痛み
- みぞおちの焼ける感じ
両方の症状が混ざっている方もいらっしゃいます。
機能性ディスペプシアの原因
この病気の原因は一つではなく、いくつかの要因が重なって起こると考えられています。
1.胃・十二指腸の運動異常
健康な胃は食べ物を消化しながら徐々に十二指腸へ送り出しますが、この動きがうまくいかないことがあります。そうなると、食べ物が胃に長く留まり(もたれる)、胃が十分に広がらない(少量で満腹になる)といったことにつながります。
これらは、早食い、食べ過ぎ、高脂肪食、香辛料の強い食事、不規則な生活、タバコ、お酒、ストレスなどが原因で起こりやすくなります。
2.胃・十二指腸が敏感になっている
健康な人では問題にならない小さな刺激でも、胃や十二指腸が過敏に反応して不快感として感じてしまう状態です。例えば
- 少量の胃酸でも痛みを感じる
- 脂っこいものを食べるとすぐに症状が出る
- 胃が少し膨らんだだけで苦しく感じる
3.ストレスや心の問題
脳と胃腸は密接につながっています(脳腸相関といいます)。強いストレスや不安があると、その信号が胃や腸に伝わって働きが悪くなることがあります。
仕事のプレッシャー、人間関係の悩み、過去のつらい経験なども胃の不調につながることがあります。
4.ピロリ菌の感染
ピロリ菌に感染していると胃の粘膜に炎症が起こります。この炎症が胃の働きを低下させ症状が出やすくなることがあります。ピロリ菌を除菌することで症状が良くなる方もいらっしゃいます。
5.その他の原因
- 胃腸炎などの感染症の後に発症することがある
- 体質(遺伝)が関係していることもある
- 消化を助けるホルモンのバランスが崩れている
これらの原因が一つだけでなく、いくつも重なって症状を引き起こしていることが多いのです。
機能性ディスペプシアの検査・診断
この病気の診断では、まず他の病気ではないことを確認することが大切です。
胃カメラ(胃内視鏡検査)
胃潰瘍や胃がんなど治療が必要な病気がないかを確認します。機能性ディスペプシアの場合、胃の粘膜には目立った異常は見つかりません。
ピロリ菌の検査
ピロリ菌がいるかどうかを調べます。
血液検査
貧血や肝臓、膵臓の病気など、他の病気がないかを調べます。
超音波検査(腹部エコー)
胆石や膵臓の病気など、胃以外の問題がないか確認します。
機能性ディスペプシアの治療
治療は、薬による治療と生活習慣の改善を組み合わせて行います。
酸の分泌を抑える薬
胃酸による痛みや焼ける感じがする場合に使います
胃の働きを良くする薬
胃の動きを改善して食べ物をスムーズに十二指腸へ送る薬です
漢方薬
胃の働きを整え食欲を改善する効果があります
心を落ち着ける薬
ストレスが強く関係している場合に使います
抗うつ薬や抗不安薬を少量使うことで症状が改善することがあります
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌がいる場合は、3種類の薬を1週間飲んで除菌します
除菌が成功すると、症状が良くなることがあります
生活習慣の改善
薬と同じくらい毎日の生活を見直すことが大切です。
生活リズムを整える
- 毎日同じ時間に起きる、寝る
- しっかり睡眠をとる(7-8時間が目安)
- 適度に体を動かす
- タバコは控える、できればやめる
食べ方を工夫する
- 一度にたくさん食べず、少しずつ何回かに分けて食べる
- ゆっくりよく噛んで食べる
- 早食いをしない
- 食べ過ぎない(腹八分目)
- 食後すぐに横にならない、運動しない
避けたほうがいい食べ物・飲み物
- 脂っこいもの(揚げ物など)
- 辛いもの、刺激の強い食べ物
- コーヒー、炭酸飲料
- お酒
- チョコレート
自分の体調を観察しながら調整しましょう。
ストレス対策
- 趣味の時間を作る
- リラックスできる時間を持つ(音楽、読書、入浴など)
- 深呼吸やストレッチをする
- 悩みを一人で抱えず、誰かに話す など
機能性ディスペプシアについてよくある質問
胃カメラなどの検査では、胃の「粘膜の状態」を見ています。しかし機能性ディスペプシアは胃の「働き(動き方や感じ方)」に問題がある病気です。
例えるなら、車のボディ(外見)は綺麗でもエンジン(働き)の調子が悪いような状態です。外から見ただけでは分からない不調が実際に存在しているのです。
適切な治療と生活改善で多くの方の症状が軽くなります。ただし、完全に治るまでには時間がかかることもあり、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返すこともあります。
根気よく治療を続けることが大切です。
機能性ディスペプシアそのものは命に関わる病気ではありません。しかし、症状が続くことで
毎日の生活の質が下がる
仕事や勉強に集中できなくなる
食事が楽しめなくなる
ストレスが増えてさらに症状が悪化する
といった悪循環に陥ることがあります。症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。
以下の点を心がけましょう
規則正しい生活(同じ時間に起きる・寝る)
バランスの良い食事
よく噛んでゆっくり食べる
ストレスをためない工夫
十分な睡眠
適度な運動
禁煙
すべてを完璧にする必要はありません。できることから少しずつ始めましょう。
症状が良くなれば中止します。ただし、再燃する場合は再開します。
ストレスは機能性ディスペプシアの大きな原因の一つです。脳と胃・腸はつながっているため心の状態が胃・腸の働きに直接影響します。
ストレスをゼロにすることは難しいですが、上手に付き合う方法を見つけることが大切です。リラックスできる時間を作る、趣味を楽しむ、誰かに話を聞いてもらうなど、自分に合った方法を探しましょう。

モモ・メディカル・クリニック
院長 百瀬 隆二
(ももせ りゅうじ)
- 日本外科学会 外科専門医
- 日本消化器外科学会 認定医
- 日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医
- 日本医師会認定産業医